ずっと静かだったしこりが、ここ数日で赤く腫れてきた。押すとズキッと痛む。粉瘤(アテローム)にこうした変化が起きた状態を、炎症性粉瘤と呼びます。膿がたまっている場合は「化膿した粉瘤」と言われることもあります。
腫れが引くのを待つか、すぐに受診するか。市販薬で様子を見てもいいのか。
外来でよく聞かれるこの迷いに答えられるよう、炎症が起きるしくみから、当院での治療と術後の過ごし方までをまとめました。
目次
この記事で分かること
- 炎症性粉瘤とはどんな状態か、なぜ赤く腫れるのか
- 早めに受診したほうがよいサイン
- 市販薬や、自分で膿を出すことをすすめない理由
- 膿を出す処置と、袋を取る手術の違い
- 腫れている日でも当院で手術を受けられるか
炎症性粉瘤とは?
赤く腫れて、痛みが出た状態の粉瘤
ふだんの粉瘤は、痛みもかゆみもありません。皮膚の下にできた袋に角質(いわゆる垢)がたまっているだけなので、触ってもコリッとした感触があるくらいです。
ところが袋のまわりで炎症が起きると、様子は一変します。赤み、腫れ、それに押したときの痛み。この3つが出てくるのが炎症性粉瘤の典型で、皮膚科の教科書では「炎症性類表皮嚢腫」として説明されています(あたらしい皮膚科学 第3版)。
炎症が起きるきっかけは2つ
きっかけは大きく2つに分けられます。ひとつは、細菌が入り込んで起こる二次感染。もうひとつは、袋(嚢腫壁)が破れて、中の角質が周りの組織に漏れ出すことです。
漏れ出した角質は、体にとっては異物です。これに反応して周りに炎症が起き、顕微鏡で見ると異物肉芽腫と呼ばれる状態になります。
細菌だけが原因とは限らない、ということです。
珍しい状態でもありません。国内の粉瘤の症例をまとめた論文に、こんな報告が紹介されています。表皮嚢腫(粉瘤の大部分を占めるタイプ)の約50%に、二次的な炎症がみられるというものです(山口ほか, 2007)。粉瘤があれば、いつ炎症を起こしてもおかしくない。そう考えておいたほうが実情に近いと思います。

参考:清水宏『あたらしい皮膚科学 第3版』中山書店, 2018, p.417(類表皮嚢腫)
参考:山口敏之ほか「粉瘤症例の検討」日本臨床外科学会雑誌 68(3):547〜551, 2007(J-STAGE)
炎症を起こしたときの症状
こんな変化は炎症のサイン
次のような変化が出てきたら、炎症が起きている可能性があります。
- しこりのまわりが赤くなってきた
- 腫れて、前よりひと回り大きくなった
- 押すと痛い。何もしなくてもズキズキする
- 触ると熱っぽい
- 赤みが周りに広がってきた
- 膿や、においのある中身が出てきた
においは、中身そのものの性質です。袋の中の角質が分解されて出るもので、炎症がなくても、押したときに出てくる白っぽい内容物にはもともと独特のにおいがあります。ふだんの痛みやにおいについては、粉瘤の痛み・におい・かゆみで触れています。
かゆみや、うっすらした赤みだけ、ということも。こうした軽い変化が炎症の入り口になっている場合もあるので、いつもと違うと感じたら様子を見続けないほうが安心です。
早めの受診をすすめる理由
炎症が長引くほど、治療も長引く
炎症性粉瘤は、放っておいても良くなりません。袋が皮膚の中に残っている限り、腫れが一度落ち着いても、同じ場所でまた炎症を起こします。
腫れがひどい時期は、いったん炎症を鎮めてからでないと袋を取る手術がしにくくなります。治療全体が長引きやすく、大きく腫れているほど手術の負担も費用も増えやすい。腫れた部分が破れて、中身が漏れ出してしまうこともあります。
こんなときは、早めにご相談を
- 赤みや腫れが、数日のうちに広がってきた
- 痛みがだんだん強くなってきた
- 膿が出てきた、または破れて中身が漏れてきた
- 以前にも同じ場所が腫れたことがある
市販薬や、自分で膿を出すのは?
やめておきたいことと、その理由
市販の塗り薬や、昔からある「たこの吸い出し」。どちらも、粉瘤を根本から治すものではありません。皮膚の中の袋がなくならないからです。
自分で針を刺す、力を入れて押し出す、といったことも避けてください。中身を出しても袋は残るので、しばらくするとまた膨らんできます。針の穴や押し出したところから細菌が入れば、炎症が悪化することも。あとも残りやすくなります。
医療機関では、炎症を抑える飲み薬(抗菌薬)を使うことがあります(山口ほか, 2007)。ただしこれも炎症を落ち着かせるためのもので、飲んでいるうちに袋が消えるわけではありません。

統括医のワンポイント
外来では「市販の塗り薬で様子を見ていました」という方が少なくありません。塗り薬では袋までは消えないので、赤みや痛みが出てきた時点で、一度診せていただければと思います。腫れが強い日ほど、早めに相談していただいたほうが、その後の段取りも立てやすくなります。
炎症性粉瘤の治療
炎症を鎮める処置と、袋を取る手術
治療には2つの役割があります。いま起きている炎症を鎮めること。そして、炎症のもとになっている袋を取り除くことです。
| 治療 | 目的 | 袋は |
|---|---|---|
| 膿を出す処置(切開排膿) | 炎症を鎮める | 残る |
| 抗菌薬(飲み薬) | 炎症を鎮める | 残る |
| 袋を取り除く手術 | 再発を防ぐ(根本的な治療) | 取り除く |
膿を出す処置(切開排膿)
膿がたまっているときは、小さく切開して中の膿を外に出します。炎症を落ち着かせるための処置で、袋を取る手術とは別のものです。膿を出しただけでは、袋は皮膚の中に残ります。
抗菌薬で炎症を抑える
細菌の感染が関わっているときは、抗菌薬を使って炎症を抑えます。
感染を伴う場合は、抗菌薬の投与や切開・排膿で炎症を鎮めてから摘出する。そうした流れが、粉瘤の症例を検討した論文にも示されていました(山口ほか, 2007)。
海外の指針も、少しだけ。形成外科診療ガイドラインの解説には、米国感染症学会のガイドライン(2014年)の考え方が紹介されています。膿の出ている感染性粉瘤には、抗菌薬と切開を行う、というものです(形成外科診療ガイドライン3 2021年版 CQ13)。
袋を取り除く手術
根本的な治療は、袋を残さずに取り除くことです(形成外科診療ガイドライン1 2021年版 CQ5)。中身を出しただけでは、残った袋からまた再発します。くりぬき法と切開法の違いは、粉瘤の治療の選び方にまとめています。
袋を取るタイミングは、炎症が落ち着いてからが一般的な流れです。
一方で、炎症があっても切除して洗浄し、その場で傷を閉じたほうが治療期間の短縮につながる、という意見もあります(山口ほか, 2007)。どちらにするかを決めるのは、腫れの程度や膿のたまり方、できた部位。

当院では腫れている日でも、手術はできる?
赤く腫れていても、当院は当日の手術に対応しています。ただ、先に膿を出す処置だけを行い、袋を取る手術は後日にご案内する場合もあります。判断の材料は、大きさや部位、患部の状態、その日の混雑状況、そしてご希望です。

統括医のワンポイント
外来では「今日中に全部済ませたい」というご希望をよく伺います。腫れている日でも袋まで取れることはありますが、その日にどこまでできるかは、腫れ方や部位を見てからの判断になります。
参考:日本形成外科学会・日本創傷外科学会・日本頭蓋顎顔面外科学会 編『形成外科診療ガイドライン1 2021年版』CQ5(p.10〜11)、『形成外科診療ガイドライン3 2021年版』CQ13(p.101〜102)
費用の目安
粉瘤の手術は保険診療です
健康保険が使える手術です。料金は、できた場所(半袖・半ズボンで隠れるかどうか)と、しこりの大きさで決まります。
初診料・再診料や病理検査などの費用が、手術代のほかに加わる場合もあります。炎症を起こして大きく腫れているほど、費用も増えやすい傾向です。金額の目安は、粉瘤の日帰り手術の費用で確かめられます。
手術のあとの過ごし方
シャワー・抜糸・病理検査
シャワーは、多くの場合、手術の当日から使えます。湯船につかってよい時期のほうは、診察のときや手術のあとに説明を受けてください。
抜糸の目安は、手術からおおむね1〜2週間後。部位によって前後するので、おおよその時期は手術の日にお伝えします。取り出した組織は、原則として病理検査に回します。良性か悪性かを確かめるためです。結果の説明で、来院をお願いすることもあります。
傷あとについては、日本形成外科学会の形成外科専門医が、できるだけ目立ちにくくなるよう縫合しています。それでも、残り方には個人差が出るもの。部位や体質で経過が変わる点は、あらかじめお伝えしておきます。
同じ場所がまた膨らんでくるのは、袋が残っていたときです。術後の過ごし方の全体は、粉瘤の手術当日の流れと術後のケアにまとめています。

統括医のワンポイント
手術のあとに「この腫れは大丈夫でしょうか」と心配される方がいらっしゃいます。気になる腫れや痛み、出血が出てきたときは、次の受診日を待たずにご連絡いただければと思います。
受診するなら何科?
形成外科・皮膚科で診てもらえます
受診先は、形成外科か皮膚科です。
どちらでも診てもらえます。手術と、そのあとの傷あとの仕上がりまで見据えるなら、形成外科が向いています。
当院はJR広島駅南口から徒歩5分。水曜をのぞき、土日も10時から19時まで診療しています(最終受付18時30分)。腫れている粉瘤で受診される場合は、来院前にお電話かLINEで状態をお知らせください。
赤く腫れた粉瘤で
お悩みの方は
当院にご相談ください
当院は、粉瘤・脂肪腫など皮膚のできものの日帰り手術に対応する形成外科クリニックです。保険診療で、土日も診療しています。腫れて痛む日のご相談も受けつけています。
ご予約
電話受付時間 平日・土日祝 7:00-21:00
診療時間:10:00〜19:00(最終受付 18:30)
休診:水曜
よくある質問
炎症性粉瘤は自然に治りますか?
粉瘤の袋そのものが自然に消えることはありません。薬や膿を出す処置で炎症が落ち着いても、袋が残っている限り、同じ場所がまた腫れることがあります。根本的に治すには、袋ごと取り除く手術が必要です。
市販の塗り薬で治せますか?
塗り薬で袋がなくなることはありません。赤みや痛みが出ているときは、市販薬で様子を見るより、早めの受診をおすすめします。
赤く腫れている日でも手術できますか?
対応しています。赤く腫れている日でも、当日に手術を受けていただけることがあります。ただし、大きさや部位、患部の状態、混雑状況、ご希望によっては、先に膿を出す処置をして、手術を後日にご案内する場合があります。
自分で膿を出してもいいですか?
おすすめしません。中身を出しても袋は残るため再発します。そこから細菌が入って悪化したり、あとが残りやすくなったりすることもあります。
炎症性粉瘤は人にうつりますか?
粉瘤は人にうつる病気ではありません。皮膚の内側にできた袋の中に角質がたまったものです。